近年、「地球温暖化」といった地球規模での気候変動が問題になっています。しかし、こうした気候変動に対して、海洋は大きな熱容量を持つことや温室効果気体を構成する炭素の循環等の面で大きな役割を果たしていると考えられています。このように海洋は、地球環境の維持と形成において大変重要な存在ですが、その海洋の熱の分布や輸送量を明らかにするには、海流流速を広域にわたって正確に測定する必要があリます。さらに、エル・ニーニョや地球温暖化などの問題に対しては広域の流速計測を10年以上の長期にわたって継続することが求められます。このような観点から海洋観測法を眺めてみると、広域・長期という点を満たす有力な計測法として、人工衛星の海面高度計が挙げることができるでしょう。しかしながら、海面高度計では、地衡流バランスが成立するという前提のもとで海面流速を求めるため、この前提がどの程度成立するかを他の方法で検定することが必要になってきます。また、ジオイドの問題があるため流速の絶対値を正確に求めることは困難であるといえます。さらに、外洋の流速場データとしては、海面流速だけでは不十分なことが多いため、他の計測法と併用することにより海面下の流速場を評価する工夫も必要になってきます。
そこで、現在、海洋学で広く利用されている音響ドップラー流速計(ADCP)を外洋を定期運行する商船の船底に取り付け表層海流場を長期間反復計測することができれば、人工衛星では計測困難な海面下の流速場データを航路に沿って得ることができます。ちなみに、表層流速場の地衡流バランスの程度は、商船ADCP計測とXBT、XCTD計測を同時に行えば、比較的簡単に調べることが可能です。将来、ADCPを外洋を定期運行する複数の商船に装備することができれば、人工衛星に匹敵する規模の広域海流データを長期間得ることも夢ではないでしょう。たとえ今回のような一隻の商船ADCPデータであっても、人工衛星の海面高度計と組み合わせれば、海流場の特性を解明する上で、より有益なデータセットを構成できるでしょう。
当研究室では、1996年9月にJ-GOODプログラムの一環として、東京大学海洋研究所と協力して、西太平洋を定期運行している鉱石運搬船「FIRST JUPITER」の船底に音響ドップラー流速計(ADCP)を取り付けました。このようにして、文部省科学研究費「国際学術研究」、科学技術振興事業団「黒潮変動予測実験」などの支援のもとに、西太平洋を縦断する航路に沿った表層海流場を10年以上にわたって長期反復計測するプログラムをスタートさせました。
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